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「キョン君、お帰りー!」 「お帰りなさい。キョン君、お邪魔してるよ」 珍しくハルヒに用事があるとかでSOS団がなかったので、帰りに本屋に寄ってから夕飯時に合わせて帰った。玄関を開けると台所から本日のメインになるであろう食事の匂いが俺の鼻を擽り腹を鳴らし、居間のテレビからはニュースで今日の出来事を報じる音がする。それらに疲れた体を押し上げてもらって二階へと上がり、今日は数学の宿題があっただの谷口のあのウザさは何とかならないのかとか考えながら我が愛しの城(ぶっちゃけ自分の部屋だが)のドアを開けると、妹とが賑やかな声で迎えてくれた。床に広げられた数字と記号の書かれた紙。手には背にファンシーなクマの絵が描かれた紙を握っている。要はトランプだ。 いや、待て。その前にここは俺の部屋なんだが。 「一ついいか?お前らが何で勝手に俺の部屋にいるんだよ…」 「キョン君、はさみ!」 「あ、うん、勝手にお邪魔してごめんね?おばさんにお夕飯にお呼ばれされたんだけど、ご飯まで妹ちゃんが遊んでって言うから、お手伝いしないのは申し訳ないんだけど…」 「…」 「ねぇ、キョン君はーやーくー!」 「私も勝手に部屋はダメだよって言ったんだよ…?」 非常に言いにくそうに説明をするとニコニコと「はさみ!」と連呼する妹を交互に見遣る。そして溜息を一つ。 まずは後者の問題から片付けるかと鞄をベッドに投げ、ブレザーを椅子にかけ、ネクタイを緩めながら机の引き出しから目的の物を探し出した。 「あったあった。お前もいい加減はさみくらい母さんに買ってもらえよ」 「嫌だよー。キョン君のはさみがいいの!」 「訳分からんことを言うな。ほら、はさみはやったんだ。お前は居間にでも行ってろ」 そう言って俺が妹にはさみを渡してドアの方へこいつの肩に手を添えながら押しやる。ぶーぶーと文句を言う妹の足がドアの向こう、廊下へと到達した瞬間、俺越しに「ちゃん、後でトランプの続きしてね!」と言ってからドタドタと走りながら去って行った。 その妹の元気のよさと若さに当てられながら帰宅後二度目のため息をつくと、いつの間に背後に立っていたのか、くすくすとの笑い声が後ろから聞こえる。 「…何かあったか?」 「んー?や、妹ちゃん可愛いなぁと思って」 「可愛いというか最近は生意気に磨きがかかってるだけだと思うが」 「そうかな。兄弟っていないから私には羨ましいよ。二人ともすっごく仲良しだし」 妹が勢いよく階段を降りていく音に、「元気だねぇ。可愛いねぇ」とは何が楽しいのかニコニコと言う。 「そういうもんか?」 「そういうもんよ。それにね、」 ふいに言葉を区切った幼馴染の顔を俺は訝しげに見る。その視線に気づいてか、目が合った瞬間にふわりと笑い、 「今の二人のやり取りって兄妹と言うより、お父さんと構って欲しい娘みたいだなって。でね、キョン君って良いお父さんになりそうだなぁって思ったの!」 そう言った。オプションは自愛に満ちたという言葉がしっくりくる満面の笑み。 谷口辺りが見たらやつの中のランクが計測機が壊れんばかりに急上昇するに違いないその笑顔に一瞬息を呑む。周囲の音が一切聞こえなくなる。まるで地球が止まったかのような感覚になる。体温が急激に顔面へと集中するのを感じた。無論心拍数は上昇傾向。ってか何故俺はただの幼馴染であるにこんなにドキドキしてるんだ! 「キョン君?」 「…」 「ん?どうしたの?」 「いや、あのな俺、」 「え?あ、はーい!今行きまーす!」 響き渡るお袋の夕飯の用意が出来たことを知らせる声。 ちょんちょんと俺のワイシャツの袖を引っ張りながら「おばさんがご飯だって!」と下へと促すを見て、今までの妙な気分が一気に払拭されて現実へと引き戻される。 そんな俺の気持ちなど知らないは先ほどとは違う(と俺は感じた)笑顔を浮かべて夕飯のおかずについてニコニコと語るのを横目に、二人で階下へと歩みを進めた。 |