朝、階下が騒がしいことに気づいて目が覚めたは心地よい寝床への後ろ髪を引かれる思いを振り切って抜け出し、その騒がしい部屋へと近づいていった。眠りを妨げられたことにより目覚めは最悪、機嫌は急降下、今目の前にその声の主がいたら迷わず張り倒しているところだと彼女は苛々としながら目的の部屋へと足音を立てずに到着したが、その時、聞こえてくる声は二つであることに気づいた。はドアに耳を当てながら考えたが、どう聞いても一つはアーサーのものだ。多分自分が今までで一番一緒に居る時間が長い存在であろう彼の声は最早間違いようもない。しかし、もう一方の声は?声色からして男性ではあるのはわかるが、今までこのアーサーの屋敷を訪ねる者自体もあまりなかったし、偶にあったとしてもは自室へと押し込められて、来客が帰るまで決して出してもらえなかった。
普段の教えを守るのなら部屋で大人しくしているのが筋だろう。しかしはこの時思ったのだ。「もうこんな毎日には飽き飽きした」と。顔を合わせるのはアーサーのみ。まるで籠の中の鳥と同じである。刺激が欲しかったのだ。そう、ほんの少しでいいから日常にちょっとしたスパイスを彼女は確実に欲していた。



ガチャッ。
彼女がドアを開けるとその音に驚いたのか、アーサーともう一人一緒に居た男がこちらを見た。

!お前人が来た時はあれほど」
「だっていつもみたいに出てきちゃダメよって言われてないわ。それに、私がまだねてるのにじゃまをしたのはそっちだもの!」
「おっ。アーサー、この子が例の?」

どう考えても明らかに自分のことについてをアーサーに尋ねていた男をは見つめる。アーサーと同じような金色の髪。自分の持つ、深い森の奥のような暗い色とは程遠いような華やかな色だ。そして何よりの目を引いたのは男の目の色だ。キラキラと宝石のように輝いているように見え、は吸い込まれるような感覚さえ覚えた。息を呑み男を見つめていたを男の言葉が現実へと引き戻す。

「初めまして、。おれはフランシス。フランシスお兄様って呼んでくれ」
「おにいさま?あなた、おにいさんなの?アーサーのおにいさん?」

は矢継ぎ早に思ったことを口に出していく。あに、という単語に余程違和感や疑問を覚えたのか、その表情は非常に訝しげなものであった。

「お前なんて兄貴なんかじゃねぇよ!」
「まぁまぁ、そんな突っかかるなって。俺は世界のお兄さんだからなー」
「ほんとうはアーサーのおにいさまじゃないのに、おにいさまはおにいさんなの?」
「うーん。ややこしいけど、そういうことかなぁ」
!構うな!」
「ほら、うるさいやつは放っておいて。しっしっ。、フランシスお兄様って呼んでご覧?」
「……フランシスおにいさま!」
「そうそう、これから俺のことはお兄様って呼んでいいんだよー。さぁ、、親睦のハグをしようじゃないか!」

そう言いながらフランシスは笑顔で大の男二人を見上げていたへと、ニコニコというよりニヤニヤに近い顔をしながら近寄って来た。先程まで彼女が見とれていた麗しい面影はどこへやら。この際だからはっきり言おう。これじゃぁ、ただの変態だ。
フランシスが一歩近づく度にアーサーは大声でに構うなと叫ぶが、そんな声が聞こえているのかいないのか、は先程から同じ位置に立ったまま笑顔でフランシスを見つめていた。と、笑顔を称えていたはずの彼女の口元が突如として歪められる。

「はんっ、おとうとがまゆげなら、あにきはひげづらのへんたいか」
「なっ!?」
…おま…ひげって…!」

の発言はアーサーとフランシス二人に別な意味で多大なダメージを与えた。フランシスはニヤニヤさせていた口元が見事に引き攣ったまま全身を硬直させ、一方アーサーはそんなフランシスの隣での発言がツボに入ったのかゲラゲラと笑いながら床を転げまわっていた。自分が貶された部分は普段言われ慣れ過ぎた為か、それともフランシスへの「髭および変態発言」があまりにも予想外だったのか、どちらにしろ所謂馬鹿笑いをしていたため、いつものような彼女への発言撤回を求める怒声は聞かれることはなかった。








「うわぁ…この口の悪さは流石にお前のとこにいるだけあるな…」
「な、何だよ!こいつは元々口が悪いんだよ!」

さて。刻一刻と広がる彼女の世界と人間関係。とアーサーの間に平穏たる時はやってくるのだろうか。