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「結局のところ、」 とんとんと背を一定のリズムで叩かれる心地よさ。 想像していたよりも男性的で逞しいことに驚きながらアーサーの腕に抱きしめられ、その胸に体を預ける。 これは檻だ。優しい嘘で満たされた檻。そうは分かっていても縋らざるを得ない自分には心の中で嘲笑する。服に染みゆく涙は心の痛みと共にじわじわと音もなく広がり、そして侵食していく。止めることなど出来ず、また逆らうこともしない。いや、きっと逆らうことをしないのではなく、出来ないのだ。彼の腕の中の優しい世界に浸りきってしまい、指の先から神経を伝って徐々に甘やかな痺れが彼女の全身の自由を奪っていくから。 「もういい、何も言うな」 彼女の言葉を遮って尚、アーサーは壊れ物でも扱うような所作で手を動かす。この人はまたそうやって優しい言葉と声で私を閉じ込める、はそう思いながらも結局のところその優しさに縋るしか今は出来なかった。 「ねぇ、アーサーさん、結局のところ、私は間違っていたんでしょうか」 息を吐くように吐露する。常であればスーツが皺になるということを気にして触れることなど出来なかったのに、今は縋るようにアーサーの後ろに回した手がスーツを掴む。 「誰も間違ってないし、誰も悪くねぇよ」 「だったら、だったら何、で、あの人、わた、」 「…が気に病むことは何もないんだ」 返ってくる言葉は肯定に非ず、否定に非ず。されどもその力は絶対で。優しい檻の中へと降り注ぐ優しい言葉は柔らかな棘をまとっての心を覆いながら静かに締め付け傷つけていく。 「…世界って欺瞞で満ちてる」 この声は果たして彼へ届いたのだろうか。 震える指先を叱咤するように背に回した手に力を込めて押さえ込む。埋めた胸から静かに彼女が顔をあげて檻の主へと顔を向けると、溢れる涙は緩やかに頬を下り、目元へと降りてくるアーサーの唇を静かに受け止める。まるで食われてしまうようだ、そうは思ったが、食われるのもまた一興かと考え、静かに受け止める。食われ、優しい彼とその世界と一つになるのもまた一興。そう思った時に彼女の口元が吊り上がっていることにアーサーが気づくことはなかった。 |