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それにしても、だ。 それにしても何故このような場所に自分がいるのか、には矢張り理解出来なかった。目を開けると視界いっぱいに広がる白の天井。己は穢れなど知らぬ、とでも言いたげなその恐ろしいまでの白さ。本来自分が世話になっている家の天井は木目の美しい木で出来ていてこのような白一色ではないのだから、その時点で頭の中は違和感で満載だ。 そして自分が横になっている寝具も。ベッドなどあの家にはない。あるのは手入れの行き届いた太陽の匂いのする布団たち。そして畳の匂いに障子から差し込む淡く柔らかい光。それらのどれもがこの空間にはなかった。 本田さん本田さん、私は何て愚かなのでしょう。誰に聞こえる訳でもない謝罪の言葉を心の内で反芻しながら、は受け止めきれない現実から目を逸らすかのように目を閉じる。 貴方の言うことを聞いていればこのようなことにもならなかったのに。貴方の言うことを聞いていれば貴方と彼の関係がこのように悪化することもなかったのに。こんな想いをしなくても済んだのに。嗚呼自分はなんて愚かな人間なんだろう。 「目が覚めたか」 「………アーサー、さん」 明らかに自分へと向けられたであろう声に、閉じていた目を開け、はゆるゆると視線を入り口へと向ける。声色から良く知る金髪の青年がそこには立っているであろうことはわかっていたのに、なのにやっとの思いで出てきた彼の名が己の鼓膜を震わせると、驚きで目を見開いた。自分で自分の声に驚くなんて。言いたいことも聞きたいこともたくさんある。しかし、口内が乾いて上手く思いを音に出来ない。 何故自分はこんなところにいるんだろう。畳の匂いは、障子から差し込む光の柔らかさは何処へ行ったのだろうか。何処へ何処へ。 心の中で自問自答をする度に言いようのない緊迫感と恐怖がを支配する。 真実を思い出してはならぬとまるでもう一人の自分が叫ぶかのように頭の痛みは増していく。 先程確かに自分は祖国への謝罪の念を抱いていたはずだ。それは何に対して?アーサーさんに?本田さんに?自分に?酷くなるばかりの頭痛に警鐘とはこのことかと妙に納得する。私は何故ここに本田さんは、ポチくんは何故ここに、ねぇ、アーサーさん、私は、 「私は、覚めなかった方が幸せだったかもしれません」 出来れば永遠に、そう続けたいが声にはならず、ひゅっと小さな音が漏れただけであった。 何故こんなにも苦しいんだろう。は再び目を閉じた。今度は受け止めきれない現実から逃げ出すために。だからこそ、その言葉と声にならぬ想いを聞いたアーサーの方が彼女よりももっともっと苦しそうな顔をしていたことに、その時のは気づくことは出来なかったのだ。そのことを悔いる時が来るまで、彼女はその罪の重さを知ることは出来ない。 |