「愛、というのはどうすれば手に入りますか」

彼女はそう彼に問うた。愛の国、そう比喩されることもある相手に、だ。
その時の彼の顔をだいぶ時間が経った今でも未だにははっきりと覚えている。酷く驚いたようなそして苦しそうな顔。いつもの飄々とした彼のイメージからは想像出来ない表情に、ただの好奇心だけでその顔を見たのならば、彼女はカメラがあればすぐにシャッターを切っていたであろう。









「…ちゃん、どうしたの急に」
「急といいますか、ずっと思っていたことなので聞きたくて。フランシスお兄さんなら答えて下さるかと」
「あー…俺とはいえ、それの答えはなぁ…」

どうにも歯切れの悪いフランシスの様子に流石のも疑問を抱いた。
いつもの彼のようにさらっと冗談めいたことでも言ってくれればいい、その程度にしか考えずに口にした質問であったのに、目の前の青年にとっては誤魔化すことの許されなぬ類の質問であったらしい。そんなフランシスを見ているとは自分が何か悪いことをしているのではないかと、心がズキリと痛むような気がした。

「あの…何かスイマセン…」
「ん?いや、ちゃんは悪くないでしょ。俺もごめんね。でも、どうしても上手く言えないんだなぁ」

愛の国が笑っちゃう、そう苦笑しながら頬を掻くフランシスをはじっと見つめる。どちらともなく言葉を続けることを止め、窓の外の喧騒がやけに煩く耳に響く。
自分はそんな表情をさせたかった訳でも、見たかった訳でもなかったのに。彼はどうしてそんなに苦しそうな顔をするんだろう。「愛」というのはそんなに重いものなのだろうか。





好きと言えばそれは愛なのか。愛していると言えばそれは愛なのか。想うだけでも愛なのか、想わぬことが敢えて愛なのか。

「言葉で上手くは表現出来ないんだけど、」

フランシスの戸惑ったような声にの弾かれたように顔を見つめる。彼女の心を揺さぶるように一つ一つ言葉を選んで口にするフランシスの様子に、どうしてそんな声を出すのかの心はかき乱されるばかりだ。

「まず始めにさ、」

その言葉が彼女の耳に届いた時にはフランシスによって手を優しく包まれていた。

「互いに触れることから始めて、それから一緒に考えるってどうかな?」

触れる手は温かく、血の通う人間のそれであった。包まれた手は大きく、フランシスに比べて小さな彼女の手は彼の手にすっぽりと包まれる。そして、いつも見ているものよりも慈しむような微笑みがへと向けられる。
自分一人では分かることが出来ない他人の温度。他人の存在感。その温かさに安堵し、は「フランシスお兄さんとなら…一緒に考えるのも楽しそうですね」とくすくす笑いながら答える。