今日も今日とて、私とルートは上司に言われた書類の処理に追われていた。実際はルートだけの担当分であったがあまりにも膨大な量であったため、私が無理を言って向かいの机で手伝わせてもらっているのだが。
しかし、限りなく一般人に近い私と国であるルートでは権限の違いがありすぎるため、殆ど回ってくるものはなかった。それでも彼のためになるならという気持ち半分、例え仕事だろうが書類と机と通路に二人の距離を遮られていようとも近くにいることが出来るのならという気持ち半分でいたが、本日は恨めしくなるほどの穏やかな天気だ。午後の柔らかな日差しは無遠慮に窓から室内へと進入し、ガラス越しに見える新緑の木々はまるでキラキラと眩い宝石のように輝いていたが、今の私にはそれは恐ろしい凶器にしか見えない。眠い。眠いのだ。これならばいっそ大嵐になって横殴りの雨や止むことのない雷や窓を割らんばかりの風が吹いていてくれた方がいい。苛々して逆に仕事に集中出来そうだ。
つい先刻ルートが、「、眠いなら無理にやらずともいいぞ」と気を遣って言ってくれたのを「平気!大丈夫!問題なし!」と空元気の限りを尽くして折角の好意を突っぱねてしまったので、ここはしっかりしなければ…!


そんな己との葛藤から数十分立った後、手伝っていた書類の不明点を尋ねるべく視線を机の上から向かいの机で仕事をするルートへと移動させると、彼は腕組をしたままこくこくと船を漕いでいた。私にはああ言っていたが、ここ数日はほぼ職場に缶詰だったのだから無理もないだろう。寧ろ今まで何事もないようにきびきびと仕事をこなしていたルートを褒めてあげたい。そして見習いたい。だが感心するのも良いがその前にルートが風邪でも引いてはいけないと思い毛布をかけてあげようと近づくと、起きた時に後が残りそうなほどに眉間に皺を寄せていたのに気づいた。何も寝てる時くらい険しい顔をしなくてもいいのに…。もしかしてフェリシアーノが砂漠でパスタでも茹でてる夢でも見てるのだろうか。それとも菊さんがはっきりしない態度を取って苛々してるんだろうか。または、上司に更に書類を増やされる夢でも見ているのか。
枢軸と呼ばれる同盟関係を結ぶ国々とルートを取り囲む人々と環境、そして彼の立場を心中で嘆きながら、否応なしにルートの心の平和を祈らざるを得ない。




ルートが上司にあまりいじめられませんように。
ルートが体調を崩したりしませんように。
ルートがこの書類の山から早く解放されますように。




そして、一秒でも早く私に構ってくれますように。

4つ目の願いを唇に乗せながらルートのおでこにそっと唇を寄せる。彼の眉間に皺が寄らない日がくればいい。私はただそれだけを望んでいる。
すぐに自分のした行為の恥ずかしさに耐えられなくなった私は感触など感じる間もなくさっと身を引いたが、一気に温度上昇をした頬の火照りは一向に引く気配がない。そんな自分を誤魔化ように、「コーヒー、入れてくるね」と小さく呟いてからダッシュで仕事部屋を飛び出して台所へ向かった。先の言葉でルートが目が覚めてしまったかは確かめなかったのでわからないが、お湯が沸くまでの数分間に何事もなかったように頬の火照りもこの乱れた心も戻すことが出来る自信が全くないことだけは確かだ。


(うわぁー!心臓が煩すぎて死にそう!)
(………………狸寝入りしていたなんてわかったらは怒るだろうな…)