「ちっけいなぁ」
「…」
「本当におまいはちっけいなぁ。やっこいし、あだだげえし」

先程から幾度となく繰り返される言葉。
セクハラ部分は自分の心の平和のためにもスルーするとして。小さい小さいと連呼されて気分がよくなる人間がいるなら是非目の前で笑い飛ばしてやりたい、そう繰り返される言葉を聞く度に思いながらも、は反抗も反論もする様子を見せなかった。ただ、己を膝に抱く男へと小さく、まるで息を漏らすかのような溜息をつく。しかし、それ以外は借りてきた猫そのものだ。

「小さい小さいって…我が国では一応平均くらいですよ」
「そうけ?」

「えぇ、そりゃぁもう。ジャスト平均身長です」と彼女が生真面目に答えると、男は豪快に笑った。数十センチcmの身長差。面すると、彼女が首が取れるのではないかと思うほどに見上げなければ確認できない表情。そして、遥か上空から降ってくる笑い声と息遣い。

まるで小さな子どもを抱くかのように自分を膝に乗せ、そして後ろから抱き付いてくるデンマークは、きっと自分のことを幼子と同位だと思っているのだろう。確かに国である彼らにとってみれば人の子などから見て老人でもただの子どもと同じくらいにしか見えぬはずだ。
しかし。そうは思ってもこうも異性扱いされないというのは、彼女にとって何だか悔しい気がしてならなかった。が、「愛の国」を語るかの国の彼の直球すぎる愛情表現というのも困りものである。あれも苦手。これも苦手。自分は「オトシゴロ」だから難しいのだ。は自身の中でそう結論付け、話を収束させようとする。

彼女が思考を巡らせている間。その間に当初より抱き方がきつくなっていることにに彼女は気づいた。抱きつかれることと、こうやって膝の上に抱えられることは羞恥心を庭に埋めて、土で覆い隠して、足で踏みしめるまでして何とか百歩譲って許そうとしても、こうもぎゅうぎゅうとまるで内臓を圧迫するほどに抱きしめられると、ある種の拷問と同じだ。息苦しい。先程までついていた溜息も出てこなくなりそうなほどの圧迫感を腹部に感じる。
流石に圧死は勘弁したい、そう思ってが抗議すると、「がめんけぇからいけねぇんだっぺ」と意味の分からない返答をされた。

「あの、デンマークさん、」
「ん?なじした?」
「あー…何でもないです」

最早何を言うのも諦めた。そう脳内が思考を切り替えた途端に体の力は抜け、自然に背を預ける格好となる。大きな人だとは思ったが、こうも密着していると改めてその体格差をまじまじと実感してしまう。広い肩幅に厚い胸板。嫌でも相手が異性で自分とは違う存在であるとわかるそれ。頼りがいのありそうな、それでいて恐怖も感じるような、そんな違い。何よりそこに色香を感じるというのも事実であった。

ハッ、と彼女は息を飲む。一体自分は何てことを考えていたんだろう…!、そう彼女が思った時には、既に頬に熱が集まり始めていた。意識をしてはいけないと思えば思うほどにその熱は加速し、そして彼女の意思などまるで感知せずに熱が暴走を始める。

「なじした、?」
「べっ別に何でもないですないですはいー!」

知ってか知らずか、肩越しに彼女の顔を見ようとデンマークが覗き込んできた。そのことが更に彼女の頬に熱を集約させ、ほんの少し前に諦めたはずだったのに、彼の手の拘束を必死に振りほどこうとジタバタと暴れる。が、決してデンマークは離そうとはしなかった。茹蛸のように真っ赤になって手足をあちこちに暴れさせるの頭上をデンマークは面白そうに暫し見つめた後、ぽつりと呟く。

「…やっぱおまいはめんけぇなぁ。はぁこのまま持ってけぇっかな。それがいいべ。おまい、うぢさ来い」
「へっ!?」

突然のデンマークの発言には驚く。驚きのあまり、ジタバタと動かし続けていた四脚は完全停止し、勢いよく天を見上げる。そして彼女が見たのは満面の笑みで彼女を見下ろすデンマークであった。
言っていることは無茶苦茶なのに、どうしてこんなに楽しそうな顔をするのか。気づくと彼女は呆けた顔をして彼を見つめ続けていたが、

「わた、私!本田さんのご飯を食べないと死んでしまいますので!白米ラブ!味噌汁が五臓六腑に染み渡ります!黒パンだけじゃ生きられません!」

咄嗟に発した言葉は言葉の意味を成していなかった。必死さばかりが先走ったそれに、デンマークは笑みからポカンとした表情へと切り替わり、そしてまた豪快に笑い始めた。

「ははは!冗談だど。そうだに犯罪みたいなことさしたらそれごそこそおまいんとこの本田におごらいる」
「犯罪みたいってかばっちり犯罪ですよ…」

もう疲れたと言わんばかりに盛大に溜息をついてぐったりと項垂れた彼女に、「ちゃんと家にはけぇしてやっから、ひとっきりこのままでいさせれ」とデンマークは言った。そしてまた彼女とそして彼女の溜息を、彼の愛情と愛着いっぱいな抱擁が包み込むのであった。