まるでそこだけ世界から切り取られたかのような鮮やさ。それ以外の全ての物が景色がモノクロになっていく音がする。禁断の実を目の前にした過去の彼らもこのように心を素手で鷲掴みされるような衝撃と甘美なる魅力に心を奪われたのだろうか。赤い赤い目には視線を奪われ、そして花にひきつけられる蝶のように目の前の男へ向けてゆるゆると手を伸ばした。

「…美味しそう」

そうが呟くと、「はぁ?」と気の抜けた声とともにギルベルトは目の前に伸びてきたの手をパシリと軽く叩き落とす。彼女の呟きはまるで蚊の鳴くような、それこそか細いものであったが、今ギルベルトとしかいないこの部屋では、蚊の音だろうともそれは空間を振るわせるには十分な音であった。

「美味しそうってお前…そういう趣味が…」
「しゅ、趣味って何ですか!?変な目で見ないで下さいよ!」

本気で気味悪がる視線に不快感を露にしながら少女は叩かれた手を大げさに「あー痛いです痛いです」と摩る。

「何ていうか」

摩っていたピタリと手を止めて、はギルベルトを眼前に捉える。矢張りこの目には人を惹きつける魔法でもかかっているのだろうか。綺麗な赤。真っ赤なルビー、禁断の実の色。

「綺麗な色の目で見る世界というのはもしかしたら同じものでも私より綺麗に見えるのかもしれない、って思って」

人種だとか色素の問題という言葉で片付けられればそれまでだ。しかし自身の祖国は美しいまでの漆黒の目と髪を持つ。それを考えると、中途半端な自身の黒いんだか茶色いんだかよくわからない濁った色の目と髪がには忌々しく感じた。
色によって目の持つ本来の機能を失われる訳ではない。無論、当たり前に視覚としての機能は果たすのだ。しかし、それでも矢張り美しい色の目で見る世界というのはそれだけで美しい世界を構築している気が彼女にはしてならなかった。

「んなこと言ったら目なんて見えてねぇだろ」

何を当たり前のことを、そう付け足しながら言い放った男の言葉に目を見開く。

「そ、それはそうですけど…!ってかまさかギルベルトさんに正論を説かれるとは思いませんでした…」
「んなっ!?」

今度は少女の言葉に男が驚かせられる番であった。
暫しの口論の後、ふいにギルベルトが口を噤んだので何事かとが問おうと口を開くと、

「まぁ、お前が俺様の魅力にメロメロってのは分かったぜ!けせせせせ!」
「…全てにおいて否定したいんですが、面倒なのでもういいです…」

額に手を当て眉間に皺を寄せると、それすらも指をさして笑われる。
結局のところいつもの調子で茶化された気がする、そうは思ったが彼女は口に出さなかった。
何より、笑いながら菓子を薦め、先程の話などまるでなかったかのようにいつもの調子で話し始めたギルベルトに、はどことなくホッとしている自分がいたことに気づいた。

綺麗な目の貴方が見る私が、どうか綺麗な存在であればいい。汚い私がどうかせめて貴方の目からだけでも綺麗に見えるといい。そんなエゴが許されるわけないのに。そんな思いと心の蟠りがごった煮になった小さく漏らした溜息ともつかぬ二酸化炭素の塊にギルベルトは気づくこともなく、少女はせめてギルベルトが見ているであろう美しい世界を一瞬でも共有できれば良い、そう思いながら向かい合う男へと微笑みかけた。