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人、というものを構成するものは沢山ある。それは容姿だったり、服装や居住地であったり。友人や家族といったその人の周りにいる他者も当てはまるかもしれない。そして、言葉遣いというのもその人というものを語る上では重要なアイデンティティとなる。 方言というのは何処か可愛らしいとぼんやりとは思う。その土地に生きる人の生き方がそのまま言葉へ反映されたもの。言葉と人生がリンクしている、そんな印象を与える。一つの個性であり、愛嬌であり。今彼女の隣にいるこの男も、彼女にそんなイメージを抱かせる一人であった。 「ベールヴァルトさん」 「ん」 「天気いいですねぇ」 「ん」 これで会話が成り立っていることを不思議に思ってはいけない。人見知り気味であると寡黙という言葉を体現したようなベールヴァルト、この二人が共にいてこれだけ話せているのだから、全く喋らぬ彼にどこか怯え気味で目にはうっすら涙を浮かべて隣に座っていた彼女という当初の構図と比べればだいぶマシになったものである。 スウェーデンという国である彼が何故東北弁を喋るのか。よく考えれば、祖国の元へと度々遊びに来る仮面の男も、明らかに国は違うのにちゃきちゃきの江戸っ子のようであったことを彼女は思い出す。 話は戻して。スウェーデンの言葉遣いは祖国の北の地方との雪深さ故の共通点なのか、それともこの世界の不思議なのか、彼女自身にもわからないことであったが、何にせよ、この大きな体に無表情で近づきがたい印象のあるベールヴァルトがこんなにも可愛らしい言葉を話すギャップは、にとってはとても有難いものであった。 それだけで彼女の中にある無意識に抱いていたベールヴァルトへの恐怖心というものが薄らいでいく。 「あの、ベールヴァルトさんって可愛いですよね」 の突然の発言に返ってくる言葉はなかったが、彼女がベールヴァルトの顔を見ると、その表情は、「急に何を言い出すんだ」と言わんばかりに驚き一色に染まっていた。 「だって、可愛いですよ。うん可愛い」 「…」 「きっとティノさんに話してもわかってくると思いますよ。あ、勿論ティノさん自身もとても可愛らしいんですよ!」 「んだか」 一応ティノのその部分は納得したらしい。彼女が「うんうん、わかっていただけますか」とニコニコと笑うと、ベールヴァルトは暫し思案顔をしたのち、ゆっくりとその手を動かす。 「だども、一番めんけぇのはだべ」 そう言って彼はの頭をわしわしと撫でる。がっしりとした手の大きさに反してその動きはとても繊細であった。猫が飼い主に撫でられるかのようにはその手に身を任せる。 この世界に来てからよく頭を撫でられるようになったような気がする。確かに国である彼らから見れば自分など小さな子どもと大差ない存在であろう。それでも彼らから受けるこの手の温かさと愛情だけは、ずっと享受していたいとが願うのは果たして我侭の部類に入るのだろうか。 |