ちゃん〜おはようのハグー」
「へ?う、うわああああああああっ…!」

突然抱きついてきた男を思いっきり突き飛ばした。余程渾身の力で突き飛ばしたのか、手が微妙にじんじんとしてくる。

「ヴェー!酷いよちゃん!」
「え、あ、スイマセン。いやあの驚いたもので…本当にスイマセン…」

思わず謝ることしか出来ないが、自分に非はないのではとは思う。
欧米人は親愛でも愛情表現が過多である、とは表情に困惑の色を浮かべながら思った。元いた世界では駅で街中でたまにすれ違う程度にしか外国人と接したことがないためあくまでも知識的な面での印象であったが、確かにその知識に間違いはなかったことをこちらに来てから嫌と言うほどに実感していた。その最たるはこのイタリア人だ。

「フェリシアーノさん、何度も申してますが、」
「『いきなりハグはダメ』でしょ」
「わかってるのなら、是非実践をしていただけると…」
「えぇー。俺、さっきちゃんと予告したよ?」

何で何でと疑問符をいくつも浮かべるこの彼に、はまるで子どもの相手をしているかのような気分にさえなってくる。欧米人の愛情表現は矢張り過多だ。それが知り合いでも。少なくとも東の小さな島国で生まれ育った彼女にとってそれは異質なもので中々慣れないものであった。

「少なくとも本田さんも何か仰ってるかと思うんですが…」
「ヴェ?菊?菊は何も言ったことないし言わないし問題ないよー」
「…………それは本田さんだからでしょう…」

大方祖国の場合も自分同様に上手くこの男に説明を聞き入れてもらえなかったのだろう。彼女は苦笑を浮かべながらもおろおろとするであろう祖国を思い浮かべ、心の中で十字を切る。ってか貴方、あの人と何年交友があるんですかなどと、あくまでも心の中でだが突っ込むのも忘れない。

「じゃぁ、もっとちゃんと予告してからならいいー?」
「それはまぁ善処します…?」

フェリシアーノの言葉にどこかで聞いた覚えのある返答をする。いやしかし日本語は便利だ。曖昧で使い勝手がある。彼にこの返答の真意が通じるかはわからないが、少なくとも遠慮くらいを覚えてもらえたら、そう思ったであった。しかし、

「では殿!今からハグをするであります!」
「え!?へ!?」
「返事は?」
「は、はいいい!」
「よく出来ました、であります!」

そう言いながら勢いよく自分に向かってきた彼に驚きのあまり目を瞑る。衝撃に耐えようと体が強張るが、こちらに向かってきた勢いに反して手つきはとても優しいものだった。まるで壊れものを扱うような。慎重さと恐れ、それから大きな親愛を感じるそれを受け、何だかは逆に自分が悪いことをしているような気すらしてきた。

「…フェリシアーノさん」
「え、痛かった!?大丈夫!?ごめんね、俺よく加減がわからなくて…」
「いえ、平気です。それに私も一応普通の人間ですので、そんなにすぐには壊れませんよ」

だからそんな怖がって触らなくても大丈夫です、そう呟いたの一言が聞こえたかどうかはわからないが、次の瞬間には、ぎゅうと言う音が聞こえそうなほどに彼女はフェリシアーノに抱きしめられていた。

「い、痛たたたっ!今のは痛いですフェリシアーノさん!」

何故この男にはオンとオフしか存在していないのだろう。彼女のその疑問に答える存在などなく、そこには笑顔で「ヴェー!ちゃんとハグー!」と叫びながら思い切り抱きつくフェリシアーノと、痛みを訴えて叫びながらも何故か笑顔のの姿があった。