「おお。結構度がきついんですねー」
「そうかい?そんなに俺の目は悪かったかなぁ」

隣に腰掛けた青年から半ば奪い取るような形で借り受けた眼鏡をかけてはパチパチと瞬きを繰り返す。ゆったりとしたソファーに腰掛け映画を観る、久しぶりに時を共有することが出来た午後のひと時。勿論目の前のテレビに映し出されるのは彼の国自慢のヒーローものだ。悪者が出てきてヒロインを攫い、最後にはヒーローがそれを助けてハッピーエンドめでたしめでたし。まさにテンプレート通りの展開だ。知らぬ内に終わっていたようで、レンズ越しに見た歪んだ視界の先に終焉を飾るには些か喧しい音楽がエンドロールと共に流れているのが目についた。

「アルフレッドさん、もしや実は老眼とかじゃ…」
「何だい、!俺はアーサーやフランシスみたいにおじさんじゃないぞ!」
「あはは。冗談ですよ」

本気になさらないで下さい、そう言ってつけていた眼鏡を外して目の前の青年へ返す。外した瞬間、世界がぐにゃりと元に戻る感覚に気分が悪くなり、は目を細めて眼鏡を見つめる。青年は左手でそれを受け取り、右手に持ったコーラの瓶を逆に少女へと手渡した。少女は礼を述べ、眼鏡を手放した手で受け取り口にする。開けたばかりなのか、きつめの炭酸が口内でパチパチと自己主張をして、は「ぐぇ」と何とも色気も可愛げもない声を発した。それを咎める声は出来れば聞こえなかったことにしたい。

「なぁ、。君は最近よく笑うようになったよね」
「そうでしょうか?」
「ああ。本田も喜んでたし、俺も嬉しいしな!それにもっと遊びに来ればいいのに!」
「それは本田さんと相談しないと何とも…。まぁ、こんなに騒がしい若者が近くに居たら私の気も紛れるかもしれませんしねぇ」

ちらと横目で見ると、その大きな体に似合わず何とも子ども染みた怒り方をするアルフレッドにはくすくすと笑う。
勿論青年とはアルフレッドのことだ。祖国とも懇意にある彼の元へは本田と二人で共にお邪魔することもあれば、だけでもふらりと遊びに行くことも最近では増えた。大概この青年は両手を広げ大いに大げさに訪問を歓迎し、そして欧州のとある島国にも負けない中々に破壊力のある料理を提供してもてなしてくれた。彼の好意は実にわかりやすい。この世界の"国"という人たちは各国の人間の性格を反映したようなプロトタイプであると聞いたこともあるが、それにしても彼はそこら辺のアメリカ人よりもわかりやすく親しみやすいようにには感じた。――――ただし、彼女が直接知るアメリカ人はあくまでもアルフレッドのみではあるが。
「コクサイカンケイ」に「コッカカンノモンダイ」、元いた世界でもこちらでもニュースなり新聞なりでよく見聞きする言葉だが、あまり難しいことは考えないようにする。それが彼ら国家と関わるためのの中でのマイ・ルールだった。

「笑うことないじゃないか!」
「子どもみたいだと思って…。ふふ、私が笑うのは嬉しいのでしょう、僕?」
「…というか、さっきから言葉が、何だかおばあさんっぽいぞ」
「…アルフレッドさん、女性に年齢関係の話は禁句だとアーサーさんに習いませんでした?」
「ワォ!そんな怖い顔したら顔に皺が出来るぞ!ほら、スマイルスマイル!」

ぐにぐにと己の頬を引っ張るアルフレッドには、抵抗することなく身を預ける。
今この時を迎えていることも、先程の映画と同じハッピーエンドなのだろうか。いや、もしかしたらまだ終わりではないのかもしれない。ハッピーエンドへ向かうための通過点なのか、はたまた分岐を誤ってバッドエンドへ向かう最中なのか。それはにもわからないことだ。