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「後悔はありませんか」 「はい」 赤く染まった地の上に黒い影が二つ横たわる。夕刻であったからかそれとも皆様の血で染まったからか、地の上ばかりかまるで空気も空も木々もこの世界中が赤一色に染まりあがってしまったかのような場所に私たちは互いを見つめながら立ち尽くしていた。真っ白であったであろう菊様の軍服は既に様々な血が混じりあったものがついてらしてその殆どを赤黒く染めてらした。ところどころに見える白い部分が元が白い軍服であったであろうことを推測させるだけだ。対する私の着物は元が朱色であったからか、一見するとそこまで代わり映えはないように見える。その実吸えるだけ吸った血のために重さは着た頃とは比べられないほどになっていた。まるで命を吸い上げると同時に重くなるかのように。 「後悔はありませんか」 「はい」 そうこの朱色は私の決意そのものなのだ。この重さは私の背負うべきものなのだ。吸い上げた分だけ重みは増し、私の決意も揺らぎないものになる。女に守られる男などと貴方はお思いになるかもしれないが、血を被るのはこの朱色の私だけでいい。これ以上汚れることなどないのだから。何より私が被れば貴方の白の軍服はこれ以上汚れる必要はない。 「、貴女は」 「菊様」 三度(みたび)問おうとする菊様のお声を遮ると、今まで無機質だった目に僅かに動揺のような驚きのような色が帯びる。 「菊様、は貴方様とならばどこまでも参りましょう」 そうどこまでも。我らはもう過去を振り返ってはならぬのだ。見るはただ目の前にある道のみ。未来のみ。その先に何があるかは誰にもわからないが、歩みを止めることも歩みを顧みることも許されていないのだ。 交わった視線を決して外すことなく見つめ続けた私を困ったような嬉しいような表情を浮かべた。 そして、「ナビ、私も貴女とならばどこまでも」と言いながら私へ差し伸べて下さった手を取り、何があっても離すまいと力を込めて握り返した。 嗚呼我らが向かうは地の国か天の国か。 |