いつ会っても派手な男である。そう思いながらは目の前に出されたティラミスをスプーンでついついと突付いては食べ、突付いては食べを繰り返す。会話の合間合間に失礼のない程度にと思いながら目の前に腰掛ける青年を見るが、その顔にはどう見ても満面の笑みとしか言えないものが絶えず浮かんでいる。

「何ー?お兄さんの顔に何かついてる?」
「え、はぁ。目とか鼻とかはついてますが」
「ははは!は本当に面白いことを言うなぁ」

ちょっと動かないで、そう言って彼女の頬についたココアパウダーとクリームをフランシスが指先で拭う。その一連の動作をギョッとしながら見つめるあまり、は言われるまでもなく動けなくなる。そして、そのままその指をパクリと自身の口へ運ぶ彼を見て、頬に赤みがさしたのが自分でもよくわかった。

「あの、フランシスさん」
「嫌だなー。固いよ固い!お兄さんって呼んでって言ったでしょ?」
「……フランシスお兄さん、」

茶化してないで用件を、そう言ったを今日会った時から変わることのない笑顔で聞いている彼。
その笑顔とその容姿に、ああ矢張りこの男は派手だ、とはどこかぼんやりと思う。

彼の手料理だというその料理たちはそれはとてもとても美味しいものだった。フランス料理、なんて言われて気が引けたが、「マナーなんて気にしなくて良いよ」と最初に言ってから彼が出してくれた料理は、なるほどそのような前置きがされなくとも、フォークとナイフに馴染みのなかった彼女にも食べやすいものだった。味も「…美味しい」とが呟くようにしかし素直な感想を述べると、蕩けそうな顔と声で「それは良かった」との言葉を返された。その一つひとつの出来事にフランシスの優しさを感じて、はここまで来るまでに張り詰めていた気が一気に緩んだような音が聞こえた気さえしていた。
そして食事とともに添えられる会話にも、彼は抜かりはなかった。フランシスからへ向けて聞かれることと言えば酷く日常的な、それこそ「昨日の夕飯は何を食べた」と言った類であったが、彼女がどんなことを言っても面白そうに聞き、そして彼はそこからどこまでも話を広げてくれる。そんなフランシスとのこの食事を純粋に楽しみ始めていたはすっかり忘れていた。

「そうだ、今日は本田さんがものすごく心配をしている中、突然目の前の男に呼び出されたからこの場にいるのだった」、と。
デセールにとフランシスがティラミスの魅力にすっかり取りつかれて肝心の目的をうっかり忘れていたことを思い出し、は次に忘れる前にと話題を切り出した。

「本田さんにわざわざ電話をしてまで私を寄越したんですよね?」
「そうだよ」
「私に「何か大事な用」があるとかで。本田さん、とても狼狽してらっしゃいましたよ…。や、私も最初お話を聞いた時にはすごく驚きましたが…」
「はは。そうだね、電話口でもよくわかったよ。あの本田が、珍しい」

でしたらそろそろ本題を、そう促すを見る目が何故だか楽しげに細められるのを見て、は背中をつと汗が流れるのを感じた。
動物的感覚とはこのようなものを言うのかもしれない。もしかして私はここで食べられたりするのだろうか。それこそ文字通り、頭からまるっとぱくっと食べられてしまうのかもしれない。昔読んだ絵本にだってあったじゃないか。最終的に食べるために迷子のヒヨコやウサギを手厚くもてなして太らせた狐の話が。

「俺がを気に入ったから、それで一緒に食事をしたかっただけで呼んだって言ったらは怒る?」
「へ?」

ああ、でも最終的に狐は彼らを食べる前に死んでしまう、物語の終わりを思い出したにフランシスは何ともあっけない答えを投げかける。

「…それってどういう意味ですか」
「いや、言ったままの意味だけど」
「それが「大事な用」、ですか?」
「そう」
「あの、あの本田さんを狼狽させた上に、「さん!危ないと思ったらすぐにお逃げなさい!お皿でも椅子でも何でも投げていいですから!そしてすぐに電話するんですよ!いいですか!?お返事は!?」なんてお母さんみたいなことを言わせた理由がそれですか…?」
「おっ、今のいーねー。すごい似てる!」

けらけらと笑う男の様子に女はスプーンを手から離し、盛大な溜息をつきながら頭を抱える。
そうだ。この人はこういう人だった。幾度か会った中でどこか掴めぬ飄々としたイメージを抱いていたのは確かである。それに彼女自身がこんな形で巻き込まれるなどとは露にも思ってはいなかったが。
抱えていた頭を上げ、フランシスを見ると、矢張り派手派手しい眩しい笑顔でこちらを見ている。何がそんなに楽しいのか彼女には分からない。もしかしたら、この世界にとって異質で特異な自分に単純に彼が興味を持っただけかもしれない。そして今日の食事の場でその異質な自分と一対一で話をしてみたかった、そんな興味本位の感情から食事の場を設けただけなのであろう。まるで珍獣を見るような目で見られるよりは何倍もマシである、そうが思い直して姿勢を正したところで、彼と目が合う。外されることの許されないその視線に小さな溜息で返して、「ではせめて、」と言葉を吐き出す。

「ではせめて、本田さんのためにも精一杯フランシスさ…お兄さんとの食事を楽しまなくてはなりませんね…」
「そうだよー。だからほら、食べて食べて。お兄さんの力作なんだから」

ほらほら、と食を進めるように促すフランシスには目の前の皿から一口分を掬いあげて口へと放り込んだ。先程心に浮かんだ不安も、口から出てきそうになる言葉も、全て飲み込むかのように嚥下する。