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「小さいアーサーさん…?」 「失礼なやつですね!アーサーの野郎なんかと一緒にするんじゃねぇですよ!僕はシー君ですよ!」 「シー君さん、ですか?」 参加する国家が増えれば増えるほど、終了の時間が押すことが間々あることはそろそろも理解していた。今日も予想通り終了予定時刻が過ぎた現在になっても待ち人が戻ってくる気配はない。しかし以前と違うのは、今までと比較にならないほどに予定された時間を過ぎているということだ。これはもしかしなくても本気で会議が踊っているんだろうか。 待ち人が戻るまでの間の暇潰しに探検と称してホテル内を見て回るのも、ギャラリーにあった絵をぼけらと眺めているのもやり尽くして飽きた頃、は会場として用意されたホテルのロビーで金色の髪を見つけた。 ソファーの上から少々出て自己主張をしていたそれを見て同じ髪色を持つ国家の誰かがサボって寝ているのだろうかと思い、こそこそと近づく。このホテルには今所謂"国家"の人間しかいないはずだ。ならば自分の狙いは外れることはなだろうと彼女は思っていたが、正面に回りこんで顔を見ると、しかしそこには見慣れない少年がいた。いや、正確には見慣れない訳ではなく、どこかで見たような少年だった。紅茶とスコーンだけが美味しい、あの紳士の国の彼を。 思わぬ出来事に鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたが、それは相手も同じだったらしい。お互いに暫く無言で見つめあった後、少年から「隣、空いてるですよ?」と少年の被っていたであろう帽子を避けてからソファーを指差され、促されるままにはおずおずと腰掛けた。 「じゃぁ、が他の皆が言ってた菊の家の変な女なんですね」 「変なと言われると悲しいながら否定は出来ませんが…。まぁ、そういうことになりますかねぇ」 どこか歯切れが悪いながらも自身を評価する言葉に肯定の言葉で返す。 子どもながらの遠慮のなさか、それともただ懐かれただけなのか、持て余していたはずの時間は、「折角だから僕が相手してやるですよ!」という目の前の少年の妙に偉そうな言葉に甘えて、共に過ごすこととなった。 少年はシーランドと名乗った。それに応えるようにが自身の名前を告げると、彼らの言うところの人間名というのも合わせて教えてくれた。そして先の失礼なんだか的確なんだかわからないやり取りも。ピーター君、とこちらに来てからとんと使わなくなった君付けを口にすると、胸の辺りにはむず痒さを感じる。 「そういえばは僕と一緒なんですね!」 自身とこちらの服を交互に指差しながらこちらを見たピーターに、先程までのむず痒さはサッと消え失せ、「え?ああ、」と彼女は思い出したように呟いた。 制服は便利だ。公の場で着ても、学生であることを主張出来、且つフォーマルなものとして認めてもらえる場合もある。世界会議がどのような位置づけにあるのかにはよくわからないが、スーツを着ろといわれるよりも矢張りこちらの方が何だか着慣れていて落ち着くというのもあったことから誰に言われるまでもなく本田と共に足を運ぶ際にはこの格好をしてくるのが常であった。 「そうですね、図らずともお揃いといったところでしょうか」 「ならは僕の家の子になるといいのですよ!」 「へ?」 今この少年は何と言ったのだろうか。停止しかかった自分の思考回路のためにが反復を要求すると、先程聞こえてきたのと同じく、「僕の家の子になるですよ、!」と眩しいほどの笑顔で言われる。 「いや、あのその流石にそれは困ったことかと」 「何でですか?同じ服を着てるですよ?僕、国民が増えると嬉しいですよ」 「え、いや、あの」 いや、その前にシーランドってどこなんでしょうかなどと自分の恥を露呈することがわかっていても今更ながら確認をしたいが、それすら許さない雰囲気があった。いいえはありません。全てははいです。そんな状況だ。 ドキドキと大きな音で鳴り続ける心臓の煩さに緊張感を増幅されながら、唾を飲んで笑顔のピーターと暫し見つめ合いをしていると、隣同士で座っていた数十センチの距離感が徐々に狭められることに気づいた。そして小さな柔らかい手に自身の手がギュッ握られる。向けられるのはいっそ嫌味かと思うほどに眩しい笑顔。その笑顔に気押されながら顔を引き攣らせていると、ふいにピーターが上に動いた。と、言うよりもピーターが浮いた。そして、それにつられて彼に捕まれていた自身の手も徐々に上方へと動く。 「こんなとこで何してんだチビ!」 正確に言うと、ピーターは突然現れた誰かに首根っこ捕まれて宙に浮いていた。 そんな彼に驚いて声のする方に視線を向けると、そこには会議に出ていていたはずのアーサーの姿があった。 「アーサーの野郎何しやがるですか!離すです!この眉毛野郎!」 「だーれーが眉毛だとっ…!?」 「お前以外にそんな名前のやつがいると思うですか?アーサーは本当に馬鹿ですねぇ。も思うですよね?」 「え!?」 「おい何でそこですぐに否定しないんだよ、!」 言えない。自分に問いかけられたのが、「眉毛」と「馬鹿」というどちらの意味なのかに迷ってたなんて口が裂けても彼女には言えない。 ピーターを手に持ったままガミガミと怒鳴り逆の手で頬をつねるアーサー、そんなアーサーに吊り上げられて宙に浮いたまま彼をおちょくるピーター、そして二人のやり取りなどとうに目にも入っておらず弁明しようと言葉になっていない呻き声をあげながらおろおろとする。 暫く三者のこの異様な光景が続いたが、最終的にはピーターが「パパ!ママ!助けてですー!」と叫びながら逃げ去ったこととともに終了となった。 「遅くなって悪かったな」 自分へと向けられた言葉だと気づくまでに時間が掛かったはハッとしながらアーサーの顔を見る。 「本田を待ってたんだろ?随分話し合いも押してたし、悪いな」 「い、いえ…あの、ピーター君も相手をしてくれましたので。それで本田さんは、」 「あぁ、あいつならアルと一緒に話してるぜ?」 ほら、とアーサーが視線を送った先を見ると、成る程、彼の言う通り祖国と懇意にあるかの国は話し込んでいた。――――――苦笑とも困惑とも取れない顔で話相手を見てる祖国の姿には深く考えないようにしておきたい、と彼女は思う。 「あの様子なら暫くかかるんじゃないか?」 「あー…」 げんなりしながらそう漏らした声とともに「そうですか…」と何とも気のない返事を返してしまう。 「?」 「えっ?いや、もう少しかかるようでしたらまだ待ちますので」 教えて下さって有難うございます、そう言ってが一先ず別な場所にでも移動しようかとアーサーに背を向けようとすると、ふいに手を捕まれた。 「…なら暫く俺と話でもしねぇか」 「アーサーさんと、ですか?」 「べ、別にお前のために言ってるんじゃないからな!それに嫌ならいいんだぞ!無理にって訳では!」 「そ、そんなに嫌がってませんけど!あの…何と言っていいかわからなくて困ってただけなんですが、」 握られた手が離される気配はない。寧ろには掴まれた最初以上に力が込められている気がしていた。こういう場合にはどうすれば、どうすれば。そう彼女が思いながら視線をあちらこちらにきょろきょろさせていると、ソファーが目に入った。先程からのピーターと自分、ピーターとアーサー、そしてアーサーと自分のやり取りを黙って見守り続けているソファーが。 「あの、まずは座りません…?」 気づくとそう言っては最初に少年とともに座っていたソファーを指差していた。 口をついて出た言葉であったがアーサーにはそのことを気にした様子はない。彼はやや赤みを帯びた顔で「お、おう」と言いながら、の手を取ったまま彼女を先に腰掛けさせた。 |