ひとつ、ふたつ、またひとつと空けられていくジョッキたちを目の前にし、当の本人たちの顔が少しずつ赤みを帯びていくのと対称的にの顔色は徐々に青ざめていた。

がこの世界にきた経緯など全くわからないものの、一先ずは各国に紹介をして一緒に解決策を見出してもらうのがいいのではと居候先でもある我が祖国の黒髪の青年―――本人曰く、大層なおじいさんである彼―――に促され、は数日間の世界会議に同行させてもらっていた。毎回開催場所が変わるというこの会議の今回の開催国はドイツだったようで、にとって初の海外旅行はその言葉の前に「異世界での」という前置きが付け加えられるものとなった。

「この方たち、本当に本田さんに減塩を薦めたんですよね?」
「えぇ、正確にはルートヴィッヒさんがですが。彼はご自身までビール絶ちして付き合ってくれたんですがねぇ…」

その反動でしょうか、と言葉を漏らした本田の横顔をチラとが見ると、手にしたあまり減っていないビールを見る彼の目は件の出来事を回想するどころか、どこか遠くを見ていた。所謂現実逃避だろう。しかしそれも納得いく光景だ、とは思う。

会議自体は祖国曰く「いつも通りの賑やかさ」、ドイツ人曰く「いつも通りの収集のつかなさ」、ロシア人曰く「いつも通り皆の顔が見れて楽しい時間」と言ったものだった。会議の最初に行われたの紹介自体は懸念された問題も起きることはなく、寧ろ歓迎ムードすら感じられたことに当事者である彼女は些か戸惑ったが、その後はまるで祭りのような騒がしさだった。つまり出席者にとっては毎度お馴染みの光景である。
そんな嵐のように過ぎ去った本日の打ち上げと労いの意味もこめたこの宴はギルベルト、ルートヴィッヒ、菊、そしての4名で行われた。
目の前のギルベルトとルートヴィッヒの飲みっぷりはいっそ気持ちが良いと思えればいいが、ここまでくれば見ているだけでこっちが酔ってしまいそうな量とペースである。ドイツ人というのはこれがデフォルトなのだろうか、などと考えていると、向かいにいるギルベルトがこちらを見ていることに気づいた。

「ん?どうした、異星人」
「え、いや、あの、私は異星人などではないんですが…ん?あれ?どうなんでしょうね?」
「兄さん、女性相手にそれはあまりにも失礼なんじゃ…」
「そんなこと言ったってヴェスト、こいつはどこのどいつかもわからないんだろ。なぁ、本田」
「はぁ…」

切れの悪い本田の言葉とは逆に、ギルベルトはぐいっと手にした飲み物を勢いよく飲み干した。ジョッキを置く音の後に「そういえば」とルートヴィッヒが言葉を発する。

「何か不自由はないか、
「え?」
「いや、なんだ。数日とはいえ我が国に滞在するんだ。もし不自由があるなら遠慮なく言ってくれ。俺に言い辛かったら本田にでもいい。何にしろ我慢はよくない」

その言葉と気遣いに心地よいくすぐったさを感じる。

「特に困ったことは…お気遣い有難うございます。それより、私はルートヴィッヒさんがお疲れなのではと」

あの会議であの人たちをまとめてたんですから、と言外に含めると、目の前の男の表情が少々柔らかくなったようには感じた。

「ならいいんだ。俺は疲れてはいないが、お前は我慢してはいけない」
「あ、はい」
「おいヴェストしつこいぞ。ってかお前全然入ってねぇし!おーい!こっちに追加!」
「な、兄さん勝手に頼むなとあれほど…!」





さん」
「はい、なんですか、本田さん」

兄弟たちのワイワイとしたやり取りを前に本田が矢張りあまり減っていないビールを手にしながらに話しかけてきた。

さん、こちらの生活には少しは慣れていただけましたか?」

無意識には着ていた制服のスカートを握っていた。
本田の心配も最もだ。急に本田邸に降り立った最初の数週間は家の外へ出ること自体を躊躇い、彼を訪ねてきた「国たち」とも顔を合わせることもは怖がっていた。この世界そのものを恐怖するかのように全身で拒み、受け入れることを恐れていた。だが今ではすっかり慣れていた。現に今こうして異世界の異国の地へ足を運び、顔を合わせるのも怖がっていた人とも手にしているのはオレンジジュースだが酒席を囲めるまでとなっていた。

「気疲れすることも多かったでしょうが、何より不思議なこともたくさんあったでしょう」
「はぁ…確かに私にとってここは不思議な世界ですが」

そう、ここはにとっては不思議なことに満ちている。その最たるは目の前の彼らだ。国が人の形を取っているなどのいた世界にとってはありえないことであった。

「不思議なことですが、でも皆さんとお話をしていると、お会い出来てよかったなぁと思うのが今の率直な気持ちです」

この世界に来れて何より皆さんと会えて本当によかった、は手にしていたオレンジジュースをじっと見つめて息を吐くように呟く。その言葉はしかし小さな呟きにも関わらず、本田といつの間にか言い合いをやめて話を聞いていた二人の心にはどんな言葉よりも強く強く響いていた。

「皆さん、これからどうなるかわかりませんが、どうぞよろしくお願いします」

嬉しいような困惑したような表情でペコリという音がつきそうなお辞儀をした彼女に、各々ホッとしたような笑顔を見せ、ギルベルトの「よし、なら次は異星人に乾杯だ!」という声とそれを咎める弟の声とくすくすと笑う黒髪の青年の声とともに今宵の宴は続いていくのであった。