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互いにソファに身を委ね、アルはUMA物の映画が映し出されたテレビに釘付けになり、私はそんな彼が時々歓声のような悲鳴のような声をあげる姿を横目で見るのはもう何度目になるだろうか。既に両の手では足りない気がする(そしてこの映画は以前見たことがある気がする)が、アルにとっては初めてでも数度目でも魅了されるものであるらしい。げんなりとそのようなことを考えていた私の視線は、ふと彼の目元へと移る。既に横目とは言えない見方で彼の顔を眺めていたが、見つめられている本人は目の前の映像に夢中になっているためか全く気づかれなかった。 目の周りを覆う部分から次第に耳元へとのびゆく鉄のラインに視線を辿らせていく。本来眼鏡とは視力矯正のために掛けるものだ。そして、掛けることによってもたらされると一部で言われている知的な印象など、あくまでも視力を矯正するために生じた副産物、オマケでしかないのだ。何故眼鏡を掛けることと知的という印象が結びつくのか私にとってはいまいち理解し難いが、その単語でアルを表現するのは何だかむず痒い気がした。 「ねぇ、アルって目が悪いんだね」 「なんだい、急に」 「ん?や、そういやアルって眼鏡かけてるなぁって改めて思って」 「あー…実はこれ、いわゆるダメメガネってやつなんだよ」 「は?」 言葉にならぬ言葉を発して私はこの形(なり)ばかり大きな青年を顔をぐいと見上げた。同じソファに座ってはいるが、私と彼の身長差は数十センチメートル単位であり、自然とこのような体勢となる。何より喋りながらアルは今まで人一人入れるほどにあったスペースをわずか10センチメートルもあるかないかの距離に縮めてきたのだ。先程より顔を更に上げねば彼の目を見て話をすることは出来ない。 「伊達眼鏡?」 「そうダテメガネ」 なんでまたそんなけったいなものをと思いながら言葉を続けようと口を開くが、彼の方から先に私の疑問への答えを与えてくれた。 「ああ!だって眼鏡を掛けてると賢そうにみえるだろう!それにヒーローっぽいって思うんだ!だってそう思うだろ!」 「う、うん…?(賢そうに「みえる」って言ってるってことは自分は馬鹿だと認めてるんだろうか…)」 「それに」 「それに何?」 「こうしてた方が相手に舐められないと思うんだ!」 そう笑顔で言った彼の表情は、発せられた口調とは裏腹に鋭さのある、"国"としての顔だった。いつもの子供っぽい言動と正義とヒーローを語るアルとは違う、薄い半透明な膜で得体の知れない何かを包み込んだような、顔。半透明故に膜の向こうは見えるようで見えない。その真実たる姿は捉えることが出来ない。それは世界の大国として名を馳せる者としての使命感が彼をそうさせるのか、それとも国として存在するアルにとっては意識下にはない感情であるのか。顔は笑っているように見えるのに、どこか底冷えのするような表情だ。背筋につと汗が伝い、合わせた視線を外すことが出来ない。 「なぁ、俺の顔に何かついてるのかい?」 「べっつにー。目と鼻と口がついてるけど」 微かに震えていた唇でそう言って誤魔化しながら、一瞬でも彼を恐ろしく思ってしまったことを私は心の底から後悔した。 |